「ほへへ~ 、やっぱりガンダムは面白いねぇ。ついつい見続けてしまうよ~」
おや、いづみくん、またガンダムを見ているのかね。他のアニメとかはチェックしたのかね?
「はい、ちゃんとしましたよ。でも、ですねぇ」
ふっ、そうか。いづみくんもいよいよイタいガンダマーの仲間入りって訳だな。
「……どういう意味です?」
そのままだよ。ときにいづみくん、何か収穫はあったのかね? 当然そのつもりで見ていたんだろう?
「はい室長、“ザクレロ”です!」
……すまん。最近どうも耳の調子が悪くてな。もう一度、ゆっくり、大きな声で頼む。
ぬう、聞き間違えではなかったか……。しかしだないづみくん、アレは難物だぞ。だから最後、十二番目と考えていたんだ。ここはおとなしくジャブローを……。
「そんなこと言い始めて、もうだいぶと経ったような気がしますけどね、室長」
むうう、それを突かれると……。だがそこまで言うのであればいづみくん、何か突破口を見つけたんだな?
「はい! それはもう!」
……そうか。よし。では今回の真実編集室、いづみくんに任せようじゃないか。
へ? ではない。君が、私に、ザクレロの再評価を騙るんだ。
えええええええええええ! でもない。君もここにきてずいぶんになる。そろそろ君主体で進めてみてもいいかと考えていたんだ。
「そうだったんですか。……室長って、傲慢で自意識過剰で部下いびりが大好きなサディストだから私、一生下っ端の三下のパシリだと思っていたんですが、違ったんですね。分っかりました! 不肖いずみ いづみ、ザクレロの再評価をやらせていただきます!」
……頑張りたまえ……。(アトデタンマリオキュウヲスエテヤロウ)
1・鎌のこと
MA-04Xザクレロの腕部には、鎌のような武装ヒート・ナタが装備されています。このヒート・ナタ、一見ちゃちく見えますが実は他のモビルアーマーに採用されているクローよりはるかに優れた武器といえるのです。
考えればザクレロや、よく比較されるMA-05ビグロの戦闘速度はかなりのもので、接敵している時間はごくわずかです。ですから“格闘用”クローなんてものは要りません。格闘戦を行う相手である敵MSとのスケールも違いますしね。
実際ビグロの場合、本体にへばりついたガンダムをクローで掴んだがために撃破されたと言ってもいいですから。これがザクレロだったならヒート・ナタで両断して、終わりです。
また、ヒート・ナタであれば戦艦に対しても実に有効な攻撃手段になります。ヒート・ナタを横にして近くを通り過ぎるだけで大きなダメージを与えることが出来るからです。別世界に出てくるMS、RMS-019クラウダが背中に装備していたビームカッターと同じ戦法ですね。
(ふむ、なかなか勉強しているようだな。クラウダまで持ち出すとはな。しかし、いったい何人がクラウダと言われて姿形を思い出すかな?)
2・索敵機能のこと
ザクレロと言えば、あの複眼のようなモノにも触れなくてはならないでしょう。
実はアレ、複合センサーなんですよ。小さなカメラアイがまさに複眼のように並んでいて、視認による索敵を行っているのです。これだとミノフスキー粒子なんか関係なくなりますからね。
そして一年戦争より約七十年後、ザンスカール帝国製モビルスーツに採用されたセンサーは、このザクレロの複合センサーの発展系だと言われています。
(くっくっく、いづみくんも騙るようになった。ザクレロの複眼は高名なイラストレーター氏でも解釈不能だったというのにな)
3・ビーム砲のこと
ザクレロの最も特徴的な部分、口のように見えるところにあるもの。これこそがザクレロを最強と言わしめている(?)武装、拡散ビーム砲です。
この時代、これを装備している兵器はザクレロのみです。(スキウレという移動砲台にも使用されたという資料もあるそうですが、確認はとれませんでした)
ビームを散弾銃のように打ち出すこの画期的な武装、よくもまあこのサイズの機動兵器に搭載できたものです。しかも優れたジェネレータを採用していたので、かなり連射できたとか。
戦闘速度もかなりのもの(ビグロには劣りますが)ですし、さらにミサイルポッドまで装備しているのです。
それでは何故ザクレロが実験中止、廃棄処分に追い込まれたのでしょうか? 求めていた性能に達しなかったからという理由らしいのですが、性能以上に運用できるかどうかを考えた方がいいと私は思います。
また、あの頃の戦況ならビグロよりもザクレロの方を採用した方が良いような気がしてなりません。
ビグロは戦闘速度が速すぎてパイロットを選んだらしいですし、ただでさえ熟練パイロットを失っていたジオンは威力や射程を選択するより、命中率が高い武装を選択するべきでした。それに応えられるのはジオンではザクレロしかいなかったのですから。
実際、連邦軍は量産MSであるRGM-79ジムの主武装ビーム・スプレーガンは威力、射程よりも命中率を重視した結果、採用したものなのです。
(ほう、拡散ビーム砲とビーム・スプレーガンの共通点に気づいていたか。……しっかし、何で口みたいにしたんだろうな、外見。ご丁寧に牙まで生えてるし)
4・出撃のこと
ザクレロは実験中止に追い込まれ、廃棄処分となるはずでした。しかしザクレロの元テストパイロットであったデミトリ曹長は、上官である有名な某大佐の命令を無視し、独断で出撃したのでした。
相手はあの白い悪魔、ガンダム。
この戦いを知る人は『すぐにやられた情けないヤツ』というような評価を下しがちのようですが、状況を考えれば、実はガンダム相手に非常に善戦したのです。
まずガンダムは、先にビグロと交戦していたので高速機動をする敵に対する経験がありました。しかもそれへの対策まで施していました。
それとは逆にザクレロは、独断出撃のため何の支援もなく、必要なメンテナンスすら受けていなかった可能性が高いのです。またザクレロには自分と同等以上の機動力を持つ敵は想定されていませんでした。しかもテスト機なのでコンピュータの経験値はゼロ、それどころか戦闘用プログラム(火器管制システムなど)の調整さえされていたかどうか疑問なのです。故にガンダムのコンピュータにすら予測されてしまう機動行動をとったため、あえなく撃墜されてしまったのでした。
しかしそれまでにザクレロは結構なダメージをガンダムに与えていました。ガンダムに対してダメージを与えたものはごくわずかであるのに!
そう、ここでもWD効果が影響しているのです。ガンダムは特別であるということを忘れてしまっているのです!
(想像力がいい風に暴走しているな。しかしWD効果って何だ? ! White Devil=白い悪魔! 勝手な造語は騙りの基本!!)
「はぁ、はぁ……、これで以上です、室長」
ふむ、ご苦労さん。
「……あの、いかがだったでしょうか?」
そうだな、百点満点中七十点だな。
「七十点ですか……、良いような悪いような」
いやいや大したものだぞ。私など最初の騙りはマイナス二百八十点、その次は二点だったからな。
「マイナス二百八十点って、人としてあんまりな点数じゃ……。あ! 分かりました! 先代の採点は減点方式で、室長のは加点方式なんですね」
人として……って。まあそういうことだ。先代を否定するわけじゃないが、教育のための評価は加点方式の方がいいと思っているのでな。まあ減点方式でいけば三、四十点だ。どちらにしても良い点数だ。よくやった。
「ええ! し、室長が人を誉めている! これは四月に雪が降るかも」
四月に雪が降っても、意外でも何でもない。そんな適当なことを言っていると北欧や北極に住んでいる人が気を悪くするぞ。
「室長、北極に人は住んでいないと思いますが?」
……、まあそういうことにしておこう。とにかく、騙りの時にそんなたわけたことを言ったら加点方式であっても減点だぞ?
ふむ、そうだな。少々抜けていると思われる箇所があるので、そこは私が埋めよう。
「はい、よろしくお願いします」
まとめ・ザクレロのこと
先ほどいづみくんが騙ったとおり、ザクレロには評価する点がかなりあるわけだ。まあ、それにいくつか付け加えてみよう。
ザクレロの姿勢制御スラスター群は、MAN-08エルメスに搭載されていたビットに応用されたに違いない。
再設計、特に機体形状をより合理的に変更すれば、間違いなく最強になれる。
テスト機だから黄色で派手。
といったところかな。
「しつちょ~、黄色で派手なのは評価対象ですか~」
もちろんだとも。
どうだ、特に2番目にあげたところなんかはザクレロを大きく評価できる根拠になると思うが。
「逆ですよ~。あれじゃあ、再設計“しなければ”評価できないって言っているようなものです」
すればいいんだろ? ではいづみくんはMS-07グフや、RX-77ガンキャノンなんかも再設計さえすれば大きく評価できるようになるとでも言うのかね?
「いえ、別にそこまでは言いませんが……」
なら、いいじゃないか。ザクレロには確かに最強、傑作と呼ばれるだろうポテンシャルがあったのは間違いない。ただいろいろと小さな“良くないこと”が起こったがために、実験中止、短い交戦時間で撃墜、という不幸が重なったにすぎん。奇異な外見というだけで馬鹿にされるザクレロが可哀想だ。
「はい、それは私もそう思います。外見がヘンといえばMA-08ビグ・ザムなんかもかなりヘンなはずなんですけどねぇ」
接地面にミサイルを装備するというのはいったいどういうことなのか、私にも理解しかねるからなぁ。危険きわまりない。
「MS-15ギャンのシールドは?」
アレは盾型のミサイルポッドだ。
(はぁ、確かそんなたわごとも言ってたなぁ……)
結論・だからザクレロは最強?!
「というわけで、ザクレロは最強であると証明できたわけですね」
えぇ!? いつ!? どこで!?
「……そんなにいぢめないでくださいよ。最初っから『この題名には無理があるかナ~』とか思っていたんですから。でもかなり持ち上げられたとは思います」
ザクレロへの評価の低さは偏見以外のなにものでもないからな。MS-07Hグフ飛行試験型とて結局失敗だったのに別に何も言われていないし、“復活”すらしているからな。
「ああ、グフ・フライトタイプですね。でもあの時点でMSが本当に空を飛んでいたらクスィーガンダムって何なんでしょうね」
そうだよな。アレの存在は後のNRX-044アッシマーやZM-S08Gゾロの努力を否定しかねないからな。なんだ、MSのまんまでも飛べるじゃん、ってな。
まあ、その偏見、色眼鏡、フィルターを極力無くし、全体的に見てみると案外すばらしい“真実”が埋もれていたりするわけだな。それこそが真実編集室の方針だし。
「でも全く別種の“真実”を植え付けようとしますけど」
そういうところでもあるからな。
……話がそれまくっておるな。
「というわけで、ザクレロは最強である、ですよね」
うむ、結果のみを繰り返し述べるのは効果的な洗脳編集方法だ。
そうとも! ザクレロは最強だ!!
編集後記:
「前回とはうってかわって、今回は私が主役です!」
まだまだ甘いがな。
「ふにゃ~、しつちょ~……」
フフフ。
しかしまあ、ザクレロがきついのは確かだな。こいつもリアルとは正反対の存在だし。
「ところで室長。ジャブローは?」
うぐっ! え~、その~……。
「逆襲成功!」
……。