「あ、ハーイルしつちょ~」
……一体どういう挨拶だ? それに『ちょ~』と伸ばすなと言っておるだろうが。どこからともなく出てきた紐を引っ張って欲しいのかね、ン?
「はーい、すいませんでーす。 っていうか自分で振っておいて何ですけど、マンガネタはやめておきましょう」
ふむ、そうかね? 私は蒲腐がお気に入りなのだが。
「そうそう、室長。情報統制府から要請が来てますよ」
なに? 府から? 一体何だ?
「えーと、『ガンタンクやれ』だそうです。何でも國外からリクエストがあったらしいです」
おお、リクエスト! 我が真実編集室も立派になったものだ。ふむ、しかしガンタンクか? どうか? いや、出来るな。
「それでは今回はガンタンクですね。じゃあ現在資料作成中のジャブローはどうします?」
次回にまわそう。せっかくリクエストしていただいたのだ。そちらを最優先するべきだろう。
「皆に優しい真実編集室ってなところですね」
いや、『自分に笑顔を向けてくれる人々に優しい真実編集室』だ。
「……えらくうがってますね。まあこんなところで欺瞞ほざいても意味無いですもんね」
そういうことだ。まあ、こう言い切るのには少々勇気がいるがね。
1・だがしかし、ガンタンクの前に
まずはガンタンクについて少し解説しておこう。
RX-75ガンタンクは地球連邦軍初のモビルスーツである。武装は120mm低反動キャノン砲×2、40mm四連装ガンランチャー×2となっている。そして移動方式は二足歩行ではなくキャタピラを採用している。また開発当初、運転手と砲手の二名の人員を必要としていた。
「え、ガンタンクってモビルスーツだったんですか?」
そういうことになっている。40mm四連装ガンランチャー(ボッブミサイル、あるいはポップミサイルとなっている資料もある)という結構謎の武器をよく見てみたまえ。腕のように関節があるだろう。ここら辺がモビルスーツなんじゃないのかな。あと操縦システムが他のRXシリーズと共通となっている。つまりガンタンクを操縦できればガンキャノンやガンダムも操縦できるというわけだ。まあ慣熟訓練は受けなくてはならないだろうがな。
「でもガンタンクのキャタピラってのはいただけないんじゃないでしょうか?」
そう、ガンタンクを騙る上で避けて通れないのがそこだ。このことについては今から詳しく騙っていきたいと思う。しかしその前にある重大な“真実”を認識しておかなくてはならないのだ!
2・モビルスーツに足はいらない?!
いづみくんも一度は耳にしたことがあるだろう。これはガンダマーというかなり素敵な略語で呼ばれている、いわゆるガンダムマニアの間ではよく語られている問題の一つである。
「あ~、確かに聞いたことあります。よく考えてみるとモビルスーツには足なんていらないっていうものですよね。これって正しいんですか? わたしにはちょっと難しかったんで……」
実はだな、いづみくん。これは正しいとか正しくないというものではない。全くの愚問なんだ。何故ならモビルスーツに足があるというのは“前提”なんだ。
「え、一体どういうことですか?」
“ガンダム世界において”はモビルスーツには足が必要なのだ。逆に言えばモビルスーツに足がいらないと主張することは『機動戦士ガンダム』という作品そのものを否定することになるのだ。
一体どうしてそうなるのか、一から説明しよう。
ではまず、仮に「モビルスーツに足はいらない」という主張を認めたとしよう。するとだな、“モビルスーツ自体が必要なくなる”んだ。
モビルスーツに“手足”がある理由として“ガンダム世界は”手足を用いた重心移動による姿勢制御(AMBAC機動と呼ばれる)をあげている。しかし足の必要性を認めないということは、このAMBAC機動も認めないということだ。ここまでは理解できるかね、いづみくん。
「はい、一応は。でもAMBAC機動って『現実にはほとんど不可能だ』ってどこかで見ましたけど」
そう、だから私は“ガンダム世界”という表現を使用しているのだよ、いづみくん。現実など問題じゃないのだ!! 何故ならガンダム世界はフィクションだからだ。フィクションに現実を持ち込んでどうする。
「でも、フィクションをより面白くするには、出来るだけ現実を取り入れなくてはならないんじゃあ?」
そうだ。いづみくんの言うとおり、“出来るだけ”だ。そのことにより、そのフィクションの現実性が増すからな。しかし出来ないところまで取り入れる必要はない。そもそもフィクションというのは『虚構』とか『作り話』とかに訳される単語だ。そのフィクションの作品である【機動戦士ガンダム】の世界観に対して『現実と食い違う』と指摘してどうするんだ? すなわち『AMBAC機動は現実にはほとんど不可能だ』と指摘するという行為は、魔法が普遍的に存在する世界に対して『エネルギー保存の法則に反している』と指摘するに等しいことなのだ。
「うわっ、それってすごく恥ずかしくないですか」
私もそう思う。しかしそれを平然と行い、格好いいつもりでいる御仁は結構多い。悲しいことだがね……。
そしてAMBAC機動も認めなければ手もいらないということである。モビルスーツの手、腕もこのAMBAC機動のためにあるのだから。
「え? モビルスーツの手って作業をするためや、手持ち武器によって汎用性を高めるためじゃないんですか」
それらはAMBAC機動を認めなくては何の説明にもならないんだ。
何故か。
AMBAC機動以外の姿勢制御といえば舵とかアポジモータ(スラスター、バーニア)があげられる。 舵ってのはまあ船とか飛行機だな。私は詳しいことは知らないが。そしてアポジモータ、いわゆるロケット噴射による姿勢制御だ。実在する宇宙機などはだいたいこれで姿勢制御を行っている。モビルスーツも主にアポジモータによる姿勢制御なのだがAMBAC機動がなくては絶対的に数、推力共に不足するんだ。
それではとアポジモータを増設するとなると、腕がじゃまになってくるんだな。
一年戦争当時のモビルスーツは自重がかなりあった。それを素早く機動させようとすれば大出力のアポジモータが多数必要になってくる。となればそのアポジモータ自体の重量とその推進剤によりさらに自重が増し、その設置体積の増加により他の装置類が圧迫されてしまう。としたならデッドウェイトである腕を装備することは非常にためらわれるだろう。いかに作業のためとか汎用性の向上とかいう理由でもな。モビルスーツは兵器だ。なら戦闘力を最重視する事に矛盾はないはずだ。
それにはっきり言ってしまうとAMBAC機動のないガンダム世界なら、作業のためならそれ専用の機体を使った方が費用対効果も作業効率もいいはずだ。また手持ち武器によって汎用性を高めるぐらいなら武器自体の換装による汎用性の方が良いと思う。腕の重量の分、大きな武器が使え、弾薬を多く積めるからな。
もう一度言うが“前提”として“モビルスーツは兵器である”ことを忘れてはならない。
「はあ、なるほど。足がいらない、手がいらない。ならモビルスーツなんていらない、という訳ですね」
そうだ。足も手もいらないのならもちろん頭もいらないはず。現に頭はモビルスーツにすら必要不可欠ではないもので、頭がないモビルスーツも結構あるからな。
で、この足も、手も、頭のないものがどうしてモビルスーツなのだろうか? すなわちわざわざモビルスーツという新兵器を考え出す必要はないことになる。
まあだがしかし、モビルスーツを必要としないとしようじゃないか。するとだな、一年戦争自体も起こらなくなるんだ。
「一年戦争が起こらないとすれば、もう【機動戦士ガンダム】じゃないですね。モビルスーツがないという時点ですでにそうだと思うけど」
そうなんだ。“ジオン公国はモビルスーツという有視界戦闘に大変優れた兵器を手に入れたから独立戦争を決意した”と言っても過言ではないからだ。
ガンダム世界においては“ミノフスキー粒子”というものがあり、これにより小型化された核融合炉や高出力のビーム兵器“メガ粒子砲”が開発されたとされる。さらにこの粒子を一定量以上散布すると、そこでは“ごく短距離の電波通信しか行えなくなる”。すなわち“レーダーや誘導兵器が無効化されてしまう”のだ。
「だから白兵戦用の兵器、モビルスーツが誕生したんですよね」
そうだ。しかしモビルスーツがないとなると、現用兵器で戦争をしなくてはならないことになる。すなわち宇宙戦艦を筆頭とするものでだ。
だが、それらはすべてジオン公国の敵である地球連邦軍ももちろん持っている。というか地球連邦軍の方が圧倒的に量が多いのだ。戦争は基本的に数の論理に従う。ならばいくら何でも負けると分かっている戦争を仕掛けることはしないだろう。
「でも地球連邦はミノフスキー粒子による戦術の変化に対応していなかったんでしょ。 なら対応していたジオン公国の現用兵器でも、数に勝る地球連邦軍に勝てたんじゃないでしょうか」
むむ、いいところに気が付いたな、いづみくん。そうだな、それは考えられる。仮にジオン公国がモビルスーツではなくモビルアーマーを採用したとしようではないか。これなら一週間戦争やルウム戦役に勝てたかもしれない。
だがな、南極条約が停戦条約(事実上の降伏勧告)ではなく軍事条約にとどまった時点でジオン公国の負けが確定するんだ。
「え、何故です?」
地球侵攻作戦を行えないからだ! モビルアーマーはそのままでは地上では使えない。マゼラアタックなどの現用兵器では地上の地球連邦軍に勝てはしないだろう。現にモビルスーツを持ってしても勝てなかったんだからな。
ジオン公国の総帥、ギレン・ザビ大将は開戦前「一ヶ月で戦争を終わらせる」と豪語していたそうだ。すなわち地球侵攻作戦は開戦時にはあまり考えていなかったというわけだ。よって宇宙におけるモビルアーマーに変わる地上用の新兵器をすぐには開発できなかっただろう。現用兵器ですらアポジモータで姿勢制御する戦闘機などを開発していたくらい、地上での特性をよく理解していなかったのだからな。
まとめると、モビルスーツがなければ一週間戦争とルウム戦役が終わった時点で、停戦条約がまとまってでも、軍事条約にとどまってでも、どちらにせよ戦争は終結するわけだ。ならばその戦争は“一年戦争”ではないだろう。せいぜい一ヶ月戦争である。
とまあ、まだまだ足を必要とする根拠はいくらかあるが、もう上記でお分かりになられたと考え、蛇足はつけないことにさせていただこう。
「……洒落、ですか?」
洒落だとも。
「はあ……、深いですね……。まあ、モビルスーツもない、一年戦争もない、じゃあ残るのはあとはニュータイプぐらいですね。果たしてこれを【機動戦士ガンダム】と言っていいんでしょうか」
ニュータイプですら、地球市民と宇宙市民の対決という構図がなければ表現は難しいと思うぞ。
3・あれ、結局ガンタンクはどうしたの?
「これで『モビルスーツに足があるのは前提である』ということは理解できました。で、ガンタンクのキャタピラと、どんな関係があるんでしょう?」
それはだな……、次回にまわそうと思う。
「でもそれじゃあ、府の要請、しいてはリクエストして下さった方へ失礼になりませんか?」
そこはもう平身低頭、謝るしかないだろう。まあすでに頭の中には原稿が存在しているのですぐに書けると思うのだが……、ちょっと時間が……。
「時間って、すぐに書けるのなら今すぐ書けば……、あ~! 後ろにあるアレは何ですか? 【プレイステーション2】と【ファイナルファンタジー9】じゃあないですか!!」
それにもうすぐ【アーマード・コア2】がだな……。
「ひど~い! それでも真実編集室室長ですか!!」
いや、ホント申し訳ない。あとそれと一応正統っぽい理由もあるんだ。
「へ~、ほ~、なんですか? 一応聞いておいて差し上げます」
差し上げてくれ。マジ、本日発見したのだよ。【MS-06解体新書】という名の素晴らしい書物を!
実はだな、ここに書いてあることの半分、いやそれ以上もの事柄がそのまんま書かれているのだよ!! 私はシンクロニシティの再発見をした気分だ。
「ふ~ん、パクッたんじゃあないんですか?」
天地神明に誓って、それはないと言っておこう。だいたいパクるんなら【MS-06解体新書】の存在をここで言ったりはせんよ。まあともかくこの本はどこぞの何かと違って本当に大変素晴らしい本である(若干文章量が少ないと思うが)ので買って損はないだろう。ただ少々高く千四百日本円である。
で、まあ、この場末でへんぴなウェブページではあるのだが、ちゃんと我々真実編集室が独自に導き出したものとして発表しておかなくてはならなくなったのだ。しかも出来るだけ早く、な。
「はあ、仕方ないです。出版された本には敵いませんもんね。どんなに素晴らしいアイディアであっても、大勢の人に認められていなければダメですからね」
だから昨今、特許が注目されておるんだろうな。
とはあ、そのような理由で急遽、これを単独コンテンツとして公開することになってしまった。ガンタンクの考察については、出来るだけ早く発表することを約束するので、どうか許して欲しい。
「とまあ、今回は全くオチもなく、謝りっぱなしで終わりなんですよまる」
編集後記:
「この回はちょっと異色ですよね」
ぬ? どこがだ?
「え、と、室長はアノ方々が嫌いなのかナ~、トカトカ」
ん~、まあ、好きではない、というのが正しいかな。だから少し否定っぽくなってしまっているな。申し訳ない。しかしこれでもだいぶと押さえた方なんだ。
その、何というか、私は“ガンダムハンマー”が大好きという変人だからな。
「……確かに変人ですね。でもなんで好きなんですか?」
多くのアノ方々が否定したいだろうが『機動戦士ガンダム』の世界が“リアルではない”という証拠の品であるからだ。
『ターンAガンダム』にガンダムハンマーのような武器が複数回出てきたことが象徴的だな。あれはこの作品が“ガンダムと名付けられたから、あえて出した”としか思えない。
「はぁ……、好きという感情もなにやらひねくれているんですね、室長は……」
はっはっは、もっと誉めてくれたまい。
「いや、全然誉めてないけど……」